お役立ちコラム

なぜ工場のOT(Operational Technology)セキュリティが重要なのか?

はじめに

工場の現場では、生産設備や制御装置の効率化・最適化を進めるため、ネットワークと連動したさまざまな技術が導入されています。高効率の生産ラインやリアルタイムの稼働監視などで利便性が向上する一方、物理的な装置がサイバー攻撃の標的となるリスクも高まっています。特に、稼働停止や出荷遅延が事業継続に大きな影響を及ぼす製造業では、制御システムが攻撃を受けるリスクを十分に考慮する必要があります。

本記事では、こうした背景から重要性を増すOTセキュリティに注目し、工場の制御システムを中心に、脅威の現状と具体的な対策について整理します。IT分野の経験を活かして製造業のセキュリティ領域へ転身を検討している方や、既に工場でのシステム管理に携わりスキル向上を目指す方に向けて、現場で求められる知識やスキル要件をわかりやすく解説します。

工場の制御システム構成とOT(Operational Technology)の特徴

制御システムの基本構造

工場の制御システムは、センサーやアクチュエータなどの物理装置、制御装置、ネットワーク機器、そしてその背後で動作するサーバやストレージなどで構成されています。これらの要素は、操作ミスやトラブルが発生した場合に製造ラインの停止や品質不良につながるため、高い信頼性と冗長設計が求められます。

国際規格IEC62443では、工場の制御システムを複数のレイヤに分けて保護することが推奨されています。特にレベル3以下へのIoT機器統合が進む中、どのように安全性を確保するかが大きな課題となっています(参照*1)。

実際には、国や業種ごとに工場の運営形態や生産規模が異なるため、それぞれの制御システムに合わせた対策が必要です。令和4年度に実施された工場システムのサイバーセキュリティ対策に関するアンケート・ヒアリング調査では、ガイドラインの作成・普及が他領域に比べて遅れていることが指摘されており、国内の多くの製造企業で十分な対策が進んでいない現状が報告されています(参照*2)。このため、制御システムの階層構造や潜在的な脆弱性を把握することが、OTセキュリティ対策の第一歩となります。

ITとの相違点と重要性

ITシステムと比較すると、工場のOT環境は24時間の継続稼働が前提となっており、システム停止が発生すると多大な経済的損失を招く可能性が高い点が大きな違いです。例えば、生産ラインを一時停止してパッチ適用を行うことが難しく、稼働優先の運用が重視されがちです。また、コマンドの書き換えによって物理的な損傷や製品の不良品化が発生するリスクもあるため、IT分野以上に慎重なリスク評価が必要です。これらの特性から、工場の制御システムには高度な防御策と監視体制の構築が求められます。

さらに、従来は工場内だけで閉じていた装置が、IoTやAI技術の進展により外部ネットワークと接続されるケースが増え、攻撃対象領域が拡大しています。

こうしたスマート工場化に伴う課題を明確化し、用途別のデータフローや対策を体系化する取り組みが進められていますが(参照*1)、現場への適用には各組織ごとの調整が必要です。攻撃を受けて制御システムに障害が発生すると、出荷スケジュールへの影響だけでなく、顧客信用の低下にも直結するため、OTセキュリティ対策は早急に検討すべき課題です。

工場に潜む脅威とリスクの現状

近年、工場のOT環境を狙ったサイバー攻撃が国内外で増加しています。2022年にはイランの製鉄所で制御システムが攻撃され、高温鋳造プロセスが書き換えられたことで大規模な火災が発生しました。また、日本国内でも工場のマルウェア感染が他拠点に拡大した事例や、サポートが終了した古いOSの脆弱性を突かれて制御端末が停止した事例が報告されています(参照*3)。

こうした攻撃は、単なるシステム障害にとどまらず、生産停止や品質不良、情報漏洩、さらにはサプライチェーン全体への影響など、企業活動に深刻な損害をもたらします。特に、工場のネットワークが外部と接続されることで、USBメモリや外部デバイス、調達品に潜むマルウェアなどの侵入経路が増え、リスクが拡大しています。

経済産業省の令和4年度調査によれば、工場システムのセキュリティガイドラインの認知・普及は他分野と比べて遅れており、特に中小企業では人材確保や復旧体制、サプライチェーン対策などの整備が不十分な傾向が見られます(参照*2)。

また、KPMGの2022年制御システムサイバーセキュリティ年次報告書によると、サイバー攻撃の防止において「専門知識の不足」が最大の障壁とされ、約49.1%の回答者が指摘しています。さらに「人材不足」も約36%に上り、セキュリティ意識向上トレーニングを実施していない組織も約17.4%存在します(参照*4)。

このような現状を踏まえ、工場のOTセキュリティ対策には、資産の可視化、脅威とリスクの分析、適切な対策製品の導入、運用・保守体制の強化、従業員教育の充実が求められています。

OTセキュリティ対策の基本と実践ステップ

工場のOTセキュリティを強化するためには、現状把握から可視化・検知・防御までの4段階のプロセスを踏むことが効果的です。

1.まず、守るべき資産を把握し、ネットワーク構成や制御機器の現状を可視化します。

2.次に、定期的な脅威分析とリスク評価を行い、潜在的な脅威を特定して優先順位を決定します。第三者の立場からリスクを検証するリスクアセスメントを活用し、セキュリティ要件の不足点を明確にします。

3.工場運用に適した対策製品を選定・導入し、検知・防止・迅速な対応を強化します。例えば、Nozomi NetworksのGuardianは、既存システムに影響を与えずにOT環境の可視化と脅威検知を実現します。

4.さらに、FortiNACやFortiDeceptorなどの製品を組み合わせることで、マルウェア感染端末の検知・遮断や、攻撃初期段階での自動隔離が可能となります(参照*3)。

運用・保守の段階では、従業員教育や外部運用サービスの活用によって、インシデント発生時の迅速な対応力を高めることが重要です。KPMGの調査でも、セキュリティ意識向上トレーニングや担当者増員への投資が高成熟度組織で重視されていることが示されています(参照*4)。

また、経済産業省のガイドラインやIPAのリスク分析調査では、工場のスマート化に伴いクラウドやデジタルツインなど新たな技術の導入が進む中、セキュリティ施策のライフサイクル管理やゾーン化、ゼロトラストの考え方を取り入れることが推奨されています(参照*1)。

国際連携とガイドラインの動向

OTセキュリティの強化に向けては、国内外でガイドラインや原則の整備が進んでいます。2024年10月には、内閣官房・内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)と警察庁が、豪州の「OTサイバーセキュリティの原則」に共同署名し、日本を含む9か国が国際連携を強化しています(参照*5)。

この原則では、
1)安全の最優先
2)ビジネス知識の重視
3)OTデータの保護
4)OTとITのネットワーク分離
5)サプライチェーンの安全性
6)多様な人材の協働とサイバーセキュリティ意識の向上
の6項目が掲げられています。これらは、工場の現場で実効性のある対策を進めるうえでの指針となります。

また、経済産業省やIPAが策定する「工場システムにおけるサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドライン」や、スマートファクトリー対応の具体策・実践例の体系化も進められており、今後は業界団体や現場担当者への普及・教育が重要なテーマとなります(参照*2)。

ITエンジニア・コンサルタントが工場OTセキュリティ領域で活躍するために

ITエンジニアやコンサルタントが工場のOTセキュリティ領域で活躍するには、IT分野で培った知識や経験を活かしつつ、制御システムや工場特有の運用・リスク管理に関する理解を深めることが求められます。

具体的には、以下のスキルや知識がポイントとなります。

  • 制御システム(ICS/SCADA等)の構成や通信プロトコルの理解
  • ネットワークセグメンテーションやファイアウォール、IDS/IPSなどのセキュリティ技術の実装経験
  • パッチ管理や脆弱性評価、インシデントレスポンスの実務経験
  • リスク評価やアセット管理、監視体制の構築・運用経験
  • サプライチェーンリスクやレガシーシステム対応の知見

また、現場での運用ルールや安全文化の理解、関係者とのコミュニケーション力も重要です。

キャリアアップを目指す場合は、IPAや経済産業省が公開するガイドラインや調査レポート、各種セキュリティ資格(例:CISSP、GIAC、情報処理安全確保支援士など)の学習を通じて、OTセキュリティの専門性を高めることが有効です。

さらに、現場でのプロジェクト経験やポートフォリオの作成、職務経歴書への具体的な案件実績の記載が、フリーランスや転職市場での評価向上につながります。

ITとOTの連携が進む中、今後はゼロトラストやクラウド連携、AI活用など新たな技術トレンドも押さえておくと、より高単価な案件やリーダー職へのステップアップが可能になります。

まとめ

工場のOTセキュリティは、サイバー攻撃の高度化やスマート工場化の進展に伴い、今後ますます重要性が高まります。現場の資産把握やリスク評価、可視化・検知・防御の各段階での対策を着実に進めることが、事業継続や企業価値の維持に直結します。

ITエンジニアやコンサルタントにとっては、OTセキュリティ領域の知識と実践経験を積むことで、市場価値の向上やキャリアの幅を広げることが可能です。ガイドラインや最新動向を押さえつつ、現場での実践力を高めていくことがポイントです。

お知らせ

OTセキュリティ、工場の現場で想定される脅威を踏まえてインフラエンジニアは業務範囲や必須スキルを整理し、案件選びやスキル棚卸しに活かすことが重要です。
インフラエンジニア 仕事内容を把握することは、案件選びやスキル棚卸しに不可欠です。業務範囲や必須スキルを確認し、フリーランス向けの最新案件情報も参考にしましょう。
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