お役立ちコラム

クラウドセキュリティ対策の基本:設定ミスによる情報漏えいを防ぐための実践ガイド

はじめに

企業のクラウド移行が加速するなかで、クラウド環境特有のセキュリティリスクへの対策が急務となっています。クラウドのセキュリティ対策を怠った場合、どのような被害が起こり得るのでしょうか。

とくにクラウドでは、利用開始のしやすさや設定項目の多さから、意図しない公開設定や権限付与が起こりやすくなります。こうした設定ミスは、情報漏えいや不正アクセスにつながる可能性があります。本記事では、設定ミスがなぜ起きるのか、どのような種類があるのか、そしてどう防ぐのかを体系的に解説します。

クラウド設定ミスの定義と背景

設定ミスが指す範囲

クラウドにおける設定ミスとは、クラウドサービスを利用する際に、アクセス権限やネットワーク、ストレージの公開範囲などを誤って構成してしまうことを指します。オンプレミス環境(自社でサーバーを所有・管理する方式)では物理的なネットワーク機器の設定が中心でしたが、クラウドでは管理画面やコードから数クリックで設定を変更できるため、意図しない公開状態が生まれやすいという特徴があります。

全世界823人のサイバーセキュリティ専門家を対象にした2022年3月の調査では、最も懸念しているクラウドセキュリティの脅威として62%が「クラウドの設定ミス/セットアップの間違い」を挙げました。同調査ではパブリッククラウド環境のセキュリティ対策について回答者の95%が「懸念がある」と回答しており、設定ミスへの危機感が業界全体で高い水準にあることがわかります(参照*1)。

クラウド利用拡大とリスクの顕在化

国内のクラウド導入は年々進んでいます。1,132社を対象とした調査では、パブリッククラウドのSaaSを「導入済み」と回答した企業が53.6%、IaaS・PaaSを「導入済み」と回答した企業が44.6%に達しました(参照*1)。さらに、2024年の国内パブリッククラウドサービス市場は前年比26.1%増と報告されており、2029年には2024年比で市場規模が約2.1倍になると予測されています(参照*2)。

利用企業が増えるほど、設定ミスによる事故の母数も増加します。2019年に公開された記事では「2025年にはパブリッククラウドの使用を制御できない組織の90%が機密データを不適切に共有してしまう」という見通しが示されました(参照*3)。クラウド市場が拡大する一方で、設定ミスのリスクは以前にも増して現実的な脅威となっています。

責任共有モデルと利用者の責任

IaaS・PaaS・SaaSごとの責任範囲

クラウドサービスには「責任共有モデル」という考え方があります。これは、クラウド事業者と利用者がセキュリティの運用責任を分担し合う仕組みです。利用者は自社が使うサービスがどの分類に当てはまるかを理解したうえで、自らの責任範囲を明確にする必要があります(参照*3)。

IaaSでは、セキュリティ責任の大部分を利用者が負い、クラウド事業者の責任は基盤となるインフラと物理的なセキュリティが中心です。PaaSでは、クラウド事業者がIaaSよりも多くの制御を担当し、利用者はアプリケーションレベルの制御やIAM(IDとアクセス権限を管理する仕組み(Identity and Access Management))の管理を事業者と共有します(参照*4)。SaaSではアプリケーションの運用責任の多くを事業者が担いますが、アカウント管理やデータの取り扱いは利用者側の責任として残ります。

設定ミスが利用者責任となる理由

利用者側の操作で生じた設定ミスは、原則として利用者自身が対処すべき領域に位置づけられます。

クラウド事業者はあらかじめ責任範囲や補償範囲、SLA(サービス品質保証(Service Level Agreement))を詳細に規定しており、利用者にどのような被害や影響があったとしても、この規定の範囲でしか補償を行いません(参照*1)。つまり、利用者側の操作で生じた設定ミスは、原則として利用者自身が対処すべき領域に位置づけられます。

ストレージの公開範囲やアクセス権限の構成はいずれも利用者が管理画面上で操作する項目であり、クラウド事業者が肩代わりする対象ではありません。責任共有モデルを正しく理解していなければ「事業者側が守ってくれる」という誤解が生まれ、設定ミスへの対策が後回しになるおそれがあります。

設定ミスの主な種類と事例

ストレージ公開設定の誤り

設定ミスの中でも特に報告が多いのは、機密情報を保持したストレージの公開設定に起因する情報漏えいです。公開されている情報の範囲では、機密情報や個人情報の漏えい事例が多く、原因として機密情報を保持したストレージの公開設定によるものが目立ちます(参照*3)。

Amazon S3(AWSが提供するクラウドストレージサービス)では、既定の状態で新しいバケット(データの保管単位)やオブジェクトはパブリックアクセスを許可していません。しかし、利用者がバケットポリシーやオブジェクトのアクセス許可を変更することで、パブリックアクセスを許可できてしまいます。S3ブロックパブリックアクセス設定はこれらのポリシーやアクセス許可を上書きし、パブリックアクセスを制限する機能を提供しています(参照*5)。こうした安全装置が用意されていても、利用者が意図的に解除したまま戻し忘れるケースが事故につながります。

IAM権限の過剰付与と認証不備

IAMの設定における典型的な設定ミスは、必要以上に広い権限を利用者やプログラムに付与してしまうことです。AWSのセキュリティベストプラクティスでは、最小特権アクセス許可を適用すること、IAMポリシーで条件を指定してアクセスをさらに制限すること、IAM Access Analyzerを使用してリソースへのパブリックアクセスやクロスアカウントアクセスを確認すること、そしてIAM Access Analyzerを使用してIAMポリシーを検証し、安全で機能的なアクセス許可を確保することが推奨されています(参照*6)。

完全な管理者権限(いわゆるワイルドカード「*」によるフルアクセス)を付与したままにしておくと、万が一アクセスキーが漏えいした際にすべてのリソースが操作対象となります。認証面では多要素認証(MFA)の未設定も大きなリスクであり、パスワードだけに依存すると不正ログインの難易度が大幅に下がります。

ネットワーク・ログ設定の見落とし

ネットワークやログの設定ミスも、深刻な被害につながります。たとえば、セキュリティグループ(クラウド上の仮想ファイアウォール)で不要なポートを外部に開放したまま運用すると、外部から直接アクセスされる入口を作ってしまいます。

ログの取得設定が無効になっていると、不正アクセスが発生しても「いつ・誰が・何をしたのか」を追跡できません。AWS Configではリソースの作成・変更・削除を継続的に評価し、ルールの条件に違反しているリソースを検出して非準拠のフラグを付け、通知を送信する仕組みがあります(参照*7)。こうした機能を有効にしていなければ、異常の発見が遅れ、被害が拡大する原因になります。

予防的統制と発見的統制

ポリシー策定と最小権限の原則

設定ミスを防ぐための対策は、大きく「予防的統制」と「発見的統制」に分かれます。予防的統制とは不正な操作を事前に防止することであり、発見的統制とはリソースが不正な状況になっていないかを継続的に監視し修正する機能です。予防的統制では、組織で定めたポリシー(国外サービスの利用禁止、必要なログの取得、高権限アカウントの管理など)を設定しシステムに実装します(参照*3)。

ポリシーの中核となるのが「最小権限の原則」です。AWSのセキュリティ基準では、IAMポリシーで完全な「*」管理者権限を許可しないこと、IAMユーザーのアクセスキーは90日以内にローテーションすること、コンソールパスワードを使用するすべてのIAMユーザーに対してMFAを有効にすること、ルートユーザーに対してハードウェアMFAを有効にすることが求められています(参照*8)。これらを組織のポリシーとして定め、システム側で強制する仕組みを作ることが予防的統制の土台です。

リリース前チェックと教育

新しいクラウドリソースをリリースする前に、セキュリティ基準への準拠を確認する工程を設けることが有効です。

ポリシーを策定しても、開発や運用の現場で守られなければ意味がありません。新しいクラウドリソースをリリースする前に、セキュリティ基準への準拠を確認する工程を設けることが有効です。CISベンチマークは、米国のCIS(Center for Internet Security)が発表したITシステムやソフトウェア、ネットワーク、クラウドインフラを安全に構成するためのガイドラインであり、製品やサービスごとに作成されています(参照*9)。

このようなガイドラインをチェックリストとして活用し、リリース前のレビュー工程で照合すれば、設定ミスが本番環境に持ち込まれるリスクを低減できます。加えて、クラウドを操作する担当者への教育も欠かせません。責任共有モデルの理解や権限設定の基本操作を定期的に確認する場を設けることで、人的な要因による設定ミスを抑えられます。

継続監視・監査による発見的統制

発見的統制では、ポリシーの準拠状況や暗号化、監視の実施状況、外部公開設定などを定期的に監視し、必要に応じて修正を行います(参照*3)。

予防的統制だけでは、運用中に生じる設定変更までカバーしきれません。発見的統制では、ポリシーの準拠状況や暗号化、監視の実施状況、外部公開設定などを定期的に監視し、必要に応じて修正を行います(参照*3)。

AWS Configのようなサービスを活用すると、リソースの構成変更を継続的に評価し、ルール違反があれば即座に非準拠のフラグと通知を出すことが可能です(参照*7)。予防的統制でミスの「入口」を狭め、発見的統制で「すり抜けた」設定ミスを拾い上げる二段構えが、クラウドセキュリティ対策の基本的な枠組みとなります。

CSPM・CNAPPによる自動検知

CSPMの仕組みと代表的機能

CSPM(Cloud Security Posture Management)は、クラウドインフラのリスクの予防・検出・対応を通じて、IaaSおよびPaaSのセキュリティ態勢を継続的に管理するソリューションです。日本語では「クラウドセキュリティ態勢管理」と呼ばれることが多く、設定ミスの自動検知を中心的な機能としています(参照*3)。

CSPMはクラウド環境全体の設定をあらかじめ定義したルールと照合し、ストレージの公開範囲、暗号化の有無、IAMの権限構成などを横断的にチェックします。手動での定期点検に比べて検知速度と網羅性に優れるため、発見的統制の自動化手段として位置づけられます。構成ミスの問題を削減するためには、安全な構成から始めることが有効です(参照*4)。

CNAPP・IaCとの組み合わせ

CNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)は、CSPMやCWPP(ワークロード保護)、CIEM(権限管理)など複数のクラウドセキュリティ機能を統合した包括的な保護基盤です。CSPM単体では設定ミスの検出に強みがありますが、CNAPPはそれに加えてワークロード保護や権限管理を統合的に提供します(参照*2)。

IaC(インフラの構成をコードで定義・管理する手法(Infrastructure as Code))と組み合わせると、コードの段階で設定ミスを検出し、本番環境へ反映される前に修正する流れが実現できます。ただし、IaCはメリットも多い反面、使い方を間違えるとかえってセキュリティリスクが大きくなってしまう点には注意が必要です(参照*3)。CSPM・CNAPPの導入とIaCの適切な運用を組み合わせることで、予防と検知の両面から設定ミスに対処する体制が構築できます。

導入時の判断基準と注意点

CSPMやCNAPPの導入を検討する際に見落としやすいのが、ツールを入れた後の運用負荷です。クラウド環境のリスクを網羅的に検出しても、そのリスクを解決できなければ意味がありません。導入において最も大切なのは「実際に運用が回ること」であり、適切に運用を回すためには基盤整備と点検が欠かせません(参照*2)。

情報提供・情報利用の両面で工数に関する課題を感じている事業者や利用者が多いことも報告されています(参照*10)。ツール選定の段階では、検出精度や対応クラウド基盤の範囲だけでなく、アラート発生時の修正手順が自組織の体制で消化できるかを事前に見極める必要があります。IaCの導入も同様に、使い方を誤ればリスクが増大するため、コードレビューの体制やテスト環境の整備を含めて計画することが求められます(参照*3)。

おわりに

クラウドセキュリティ対策の要は、責任共有モデルの理解、設定ミスの類型把握、そして予防的統制と発見的統制の二段構えの実装にあります。ストレージの公開設定やIAM権限の過剰付与といった設定ミスは、ツールと運用の両面から継続的に点検することで初めて防げるものです。

CSPMやCNAPPの活用は有力な手段ですが、導入後に運用が回る体制を整えられるかどうかが成否を分けます。自組織の責任範囲を正確に把握したうえで、ポリシー策定からツール導入、教育までを一貫して設計できます。

お知らせ

クラウド・セキュリティ・対策・設定ミスは、インフラエンジニアが仕事内容を正確に把握しスキルを棚卸してこそ未然に防げます。具体的対策や案件確認も必須です。
インフラエンジニアが自身の仕事内容を把握することは、案件選びやスキル棚卸しに不可欠です。業務範囲や必須スキルを確認し、フリーランス向けの最新案件情報も参考にしましょう。
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