お役立ちコラム
サイバー対策の要!金融ISACのサイバーセキュリティ演習FIREとは
金融ISACとは
サイバー攻撃が深刻化する金融業界において、組織の枠を超えた情報共有と協力体制の確立は不可欠です。
その中の一つの取り組みとして、「金融ISAC」があります。
2014年に設立され、銀行、証券、保険、クレジット会社など幅広い金融機関が434社も参加しているこの社団法人は、業界全体の防衛力を高める目的で活動しています( 参照*1)。代表的な取り組みには、脆弱性情報の共有や演習の企画運営、公的機関との連携などがあり、参加機関は最新のサイバー脅威に対して迅速な対策を打ち出しやすくなっています。
自助・共助・公助の「三助」
金融ISACでは、自助・共助・公助という3つの段階的枠組みを重視しています。まず自助は個社のセキュリティ対策の向上をめざし、共助では会員各社がインシデント情報や対策手法を共有し、被害拡大を防ぎます。そして公助では金融庁など公的機関との連携を強め、重大な情勢変化に素早く対応できる環境を整備しています。
さらに米国FS-ISACとの連携を通じ、海外のサイバー脅威情報や防御手法も吸収しやすい状況が形成されています。FS-ISACは金融サプライチェーンのセキュリティを強化する新たなプログラムを進めており、日本の金融ISACとも情報連携が始まっています( 参照*2)。
国内外で観測された攻撃手口を共有し、侵入経路や被害のパターンを分析するには、どの金融機関も単独で対応するには限界があるため、こうした広範なネットワークが大きな役割を果たしています。
情報のグローバルな共有は、従来は見落とされがちだったサプライチェーン全体のリスク対策にも重要です。金融ISACは単なる情報交換の場ではなく、各社が実際のセキュリティ向上策を検討し、業界全体でインシデント被害を最小化する戦略的なハブとして機能しているのです。
FIRE演習の概要と参加方法
「FIRE演習の目的と特徴」
FIRE演習は、金融ISACが主催する大規模なサイバーセキュリティ訓練です。国内の金融機関が一堂に会し、実践的な対応力を高める機会として注目されています。
実際のサイバー攻撃を想定したシナリオが用意され、参加機関は攻撃発生からの初動、情報共有、対応策の検討を行います。それぞれの金融機関が似通った脆弱性を持つ場合でも、一緒にその対策を練り上げることで、より効果的な防御策を生み出すメリットがあります。
演習は年1回規模で開催され、過去には260社以上が参加した実績があります( 参照*3)。
「FIRE演習の参加方法と準備」
FIRE演習への参加方法は、金融ISACに加盟している各社が申し込みを行い、事務局からの案内に従って準備を進める形が一般的です。
演習内容や攻撃シナリオの詳細は機密保持を重視しつつ共有されます。演習前には、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)やセキュリティ担当者が互いに情報交換を行う場が設けられ、必要な準備や役割分担が確認されます。
「FIRE演習の実践的な学びと専門家の関与」
FIRE演習に参加する利点として、通常の業務では得られないリアルな訓練環境に身を置けることが挙げられます。演習のシナリオは最新の攻撃手法を想定しており、緊迫感を伴う中で的確な初動や組織内外の連携が試されます。
例えば、攻撃者からのフィッシング手口が高度化し、メールだけでなくSNSやクラウドストレージを介した侵入が疑われるケースも議題に上がります。
こうした状況に対して、すばやい監視体制の構築やコミュニケーションルートの再点検が求められ、参加企業は自社だけでなく他社の事例からも実践的なヒントを得られます。また、ジェーシービーのシステムリスク対策担当である笹田登志夫さんなど、各社の専門家が議論に加わる場面もあり、多角的な視点を養うきっかけとなっています( 参照*4)。
「多様な企業の参加と学びの広がり」
FIRE演習は、企業規模や専門領域が異なる多様な金融機関が集まるため、互いから学べることが多いのが特徴です。参加の手続き自体は難しくなく、金融ISACの演習担当部門との連絡を取ることで申し込みが始まります。演習を通じて、企業ごとの課題や強みを共有し合い、業界全体の底上げにつなげることができます。
FIRE演習の形式とシナリオの実例
「FIRE演習とは」
FIRE(Financial Industry Resilience Exercise)は、金融ISACが実施するサイバーセキュリティ演習で、金融機関・インフラ事業者・政府機関が連携して対応力を高めることを目的としています。FS-ISAC(Financial Services Information Sharing and Analysis Center)の国際的な演習モデルをベースに設計されており、現実に即した攻撃シナリオを通じて、技術的対処だけでなく、経営判断や対外的コミュニケーションも含めた総合的なレジリエンス向上を狙います(参照*5)。
演習の形式
FIRE演習は、主に「テーブルトップ型(Tabletop)」と「シミュレーション型(Live Simulation)」の2形式で行われます。
- テーブルトップ型:経営層やCSIRTが会議形式で対応方針を検討する。机上での意思決定や報告ラインの確認、広報対応の整合性などを重点的に訓練します。
- シミュレーション型:実際のシステムログ、メール通信、模擬報道などが用意され、各参加機関のセキュリティ担当者がリアルタイムで対応を実践します。通信遮断・システム改ざん・データ流出などの事案が段階的に発生し、組織横断的な調整力が試されます。
これらの形式は、FS-ISACの国際的な演習「Cyber Range」や「Global Industry Exercise」にも準じた構成であり、日本版FIRE演習はその国内応用として発展しています。
代表的なシナリオ例
FIRE演習で用いられるシナリオは、実際の金融業界で観測された脅威や海外の攻撃事例をもとに設計されています。代表的な例には以下のようなものがあります。
- ランサムウェア感染拡大シナリオ:国内複数の金融機関に同時感染が発生。感染経路の特定、復旧判断、情報共有タイミングが試される。
- 決済インフラ障害シナリオ:主要送金ネットワークが外部攻撃により停止。代替経路の確保と金融庁への報告、顧客対応の優先順位を即時判断する必要がある。
- サプライチェーン攻撃シナリオ:外部委託先システムの改ざんにより不正送金が発生。複数企業間での連携や責任分担の明確化を訓練する。
- 情報漏えい・SNS炎上シナリオ:内部関係者による不正アクセスを契機に、メディア報道やSNS上での拡散に対する広報・法務対応を行う。
演習の進行と評価
演習は通常、数時間から半日にわたって段階的に進行します。各フェーズでは、攻撃の進展や外部通報、顧客への影響などが提示され、参加チームはその都度判断と対応を実施します。終了後には「アフターアクションレビュー(AAR)」が行われ、各社が得た教訓・課題を共有し、改善策をまとめます。FS-ISACが提唱する「Prepare → Respond → Recover → Improve」のプロセスに沿って、組織のオペレーショナルレジリエンスを継続的に高めることが狙いです。
国際的な連携とFIREの位置づけ
FIRE演習は、米国や欧州で行われる「Quantum Dawn」「Fortress」などのグローバル金融演習とも整合性を持ち、FS-ISACを通じた情報交換が行われています。こうした国際協調により、日本の金融ISAC参加機関は海外のベストプラクティスを吸収し、自社の対応手順を国際水準に引き上げることができます。
FIRE演習がもたらす人材育成とキャリア拡大
「FIRE演習とスキルアップの機会」
金融ISACの公式サイトでは、会員企業に向けて演習やイベント情報、スキルアップのための資料が数多く提供されています。
FIRE演習を契機として、セキュリティ担当者が学ぶべき最新の攻撃動向や対策が共有され、組織内研修やOJTに活用する事例も増えています。
演習後の振り返りや報告会は、参加者が相互に知見を交換し将来の課題を洗い出す場として重要です。自組織に不足しているスキルや対応手順を確認し、次回の演習や日常業務で改善を図る流れが確立されています( 参照*6)。
「実践力とコミュニケーション能力の向上」
演習を通じた人材育成では、実践力のみならず、対外的な交渉力やコミュニケーション管理能力も身につきます。
実際のインシデントでは、セキュリティ部門が中心的役割を担いますが、経営層や関連部署、顧客とのやり取りも欠かせません。FIRE演習での模擬対応を経験すると、意思決定者に必要な情報を論理的に整理して報告する能力が高まり、キャリアパスの広がりを感じる参加者も多いとされています。
特に若手の担当者にとっては、演習がチーム連携を実践的に学ぶ格好の機会となります。インシデント対応においては、通信障害やシステム障害、一部取引停止などが発生すると業務が混乱しがちです。しかし、演習でそれらを疑似体験しておくと、本番での落ち着いた対応や検証がスムーズになります。さらに先輩社員から演習後に受けるフィードバックを通じて、弱点を早めに克服し自信を高めることが可能です。
「キャリア形成と専門性の拡大」
近年はFIRE演習で学んだことを自らのキャリア形成に生かし、サイバーセキュリティを軸に専門性を伸ばす人材が増えています。
例えば、演習で培った知見をもとに、CSIRTチームを強化したり、海外の動向を踏まえた対策を推進したりする役割を担うケースもあります。金融業界ではセキュリティが事業継続の要であるため、こうした演習で得られる経験はキャリア形成において大きな武器となります。
今後の展望とまとめ
金融ISACが実施するFIRE演習は、金融業界が直面するサイバーリスクに対応するうえで重要な取り組みとしての地位を確立しています。演習に参加することで、インシデント対応の手順や業務継続計画の整備が具体化され、情報共有のハードルが下がる効果が得られます。
今後は、より多様なシナリオと複数部門の連携が盛り込まれる演習が計画される見込みです。
金融庁や警察との連携はもちろん、顧客や取引先企業への情報発信手順も重要度を増すでしょう。
サイバー犯罪は国際的な広がりをみせるため、海外の関連団体との連携も不可欠です。グローバルに進展するサイバー脅威に対抗するには、各国の最新動向をキャッチアップしながら対策を共有する必要があります。すでに金融ISACが米国FS-ISACと協力しているように、今後は欧州やアジアの金融セクターとの結びつきが一層進む可能性があります。
お知らせ
金融ISAC FIRE演習は、金融分野のインシデント対応力を高める重要な演習で、インフラエンジニアの仕事内容把握やスキル棚卸しと直結します。フリーランス向け最新案件情報の確認や案件選びにもつながるため収集が重要です。
インフラエンジニア 仕事内容を把握することは、案件選びやスキル棚卸しに不可欠です。業務範囲や必須スキルを確認し、フリーランス向けの最新案件情報も参考にしましょう。
cyseekではフリーランスのITエンジニア向けの案件をご紹介しています。
案件に関する新着情報は、以下のリンクからご覧いただけます。
参照
- (*1) https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/cyber_anzen_hosyo/dai4/siryou2-2.pdf</a >
- (*2) https://www.fsisac.com/newsroom/fsisac-%E9%87%91%E8%9E%8D%E6%A5%AD%E7%95%8C%E3%81%AE%E3%82%
B5%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4-%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3-%E3%82%BB%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3
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E3%83%A0%E3%82%92%E9%96
%8B%E5%A7%8B</a > - (*3) https://fit.nikkin.co.jp/post/detail/hl1011</a >
- (*4) ダイヤモンド・オンライン – サイバー攻撃対策で金融機関250社超が結集、セキュリティ演習の「超実践的な中身」とは</a >
- (*5) https://www.fsisac.com/exercises</a >
- (*6) https://www.f-isac.jp/</a >
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